2016年9月3日土曜日

欲張りすぎないこと

 今年度は初めて、特別支援学級の担任になりました。担当している児童は、ダウン症のお子さん(A君)です。精神年齢は3歳程度で、笑顔がとてもかわいらしい子です。

 4月の始業式に、A君は登校して上靴を履くまでに30分かかりました。教室に行く階段を上るまでに30分、お手洗いで用を足すまでに30分・・・その間に彼の口から出tてくる言葉は「やだ!」の一言のみ。しかも学校内に響き渡るくらいの声量です。廊下の途中途中で座り込みをしながら、私のあらゆる提案に、「NO!」と意思表明をしてきます。靴箱が変わったこと、教室が変わったこと、担任が変わったことなどの変化が、A君を混乱させ、不安にさせたのだと思います。1年生の時の様子を少し知っていたつもりでしたが、私に見えていたのほんの一部分でした。A君が帰った後、私の頭の中で「やだ。」という言葉が響いていたのを覚えています。

 1カ月するとA君も私も、新しい環境に慣れていきました。そんな時同僚の先生とこんな話をする機会がありました。
 A君は授業時間と休み時間の切り替えが上手くできません。彼はチャンバラごっこが好きなのですが、遊んでいたいと思ったら、ずっと遊び続けます。初めはどうすれば良いのか分からず、最終的に私が何とか椅子に座らせていました。でも「もっと遊びたかったのに!」という彼の思いがあるので、次の学習を始める時も「やだやだ。」と始まります。結局A君の気持ちが学習モードになっていないので、授業が停滞します。そんな時に同僚の先生から、「欲張りすぎると良いことないんだよね。」と言われました。本当にその通りだと思いました。「時間を守らせないと。」「時間割通りに進めないと。」という私の考えが先行し、目の前のA君のことを考えていたのだろうかと深く反省しました。
 A君の1年後、2年後、もっとその先を考えた時、今この瞬間に「もう少し遊びたい」という気持ちを諦めさせることに、何の意味があるのだろうかと考えなおしました。今では「あと何回遊んだら、勉強しましょう。」「チャイムと一緒に片付けができたね。」と約束をしながら、彼の行動を認めるようにしています。上手くいかない日もありますが、「そんな日もある。それならこうしてみよう。」と考えるように努力しています。(まだまだまだ努力中です。)心を穏やかにするように努めることで、A君を安心させ、信頼関係を結んできました。改めて教師が笑顔でいることの大切さ、自分の機嫌を自分でとることの大切さを、A君から学びました。


 始業式から5カ月が経ち、A君の素晴らしい所をいくつも知ることができました。初日に30分かかった階段も、今は5分で上ります。A君は友達の行動をよく見ていて、真似をすることができます。私の提案には「やだ」と言っても、友達に誘われるとスムーズに活動することができます。校歌が大好きで、精一杯の言葉で一生懸命歌います。A君のにこにこ笑顔に周りの人が癒され、喜ぶ姿を見ることがあります。A君の保護者の方は「彼が大人になった時、この町で人と繋がりながら生活できるようになっていてほしい。」と願っています。そのためには、どんなことができるのか。「欲張りすぎない」ように、A君をよく見て考えていきたいです。試行錯誤の毎日を楽しみたいと思っています。


                                                      辻村 佳子

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